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さて、帝釈天参道には、高木屋と同じく草だんごを名物にする『とらや』が建つ。その位置は、高木屋から2軒を隔てた参道の奥寄り。まさに、映画に登場する「とらや」と同じ位置に建っている。
（映画に登場する店内は松竹スタジオセットであり、実際の店の中ではない）
「男はつらいよ」の第39作目までに登場する団子屋の屋号と同じなので、『高木屋』よりも、こちらの屋号にピンと来る方、『とらや』が実在の店であると思う方も多いに違いない。
実際の『とらや』の店頭には「1作から4作まで実際に映画の撮影に使用したお店です」との貼り紙があり、また店内には、その1～4作目の撮影で使用された、という当時の階段も残されている。
しかし、映画中の団子屋は第39作目『男はつらいよ
寅次郎物語』（1987年）までは『とらや』だが、第40作目『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』（1988年＝昭和63年）から『くるまや』と屋号が改称された（車とは寅さん、おいちゃんの姓）。
参道の『とらや』がモデルなら、その必要もないのに何故なのか…？ 実は、もともと参道に『とらや』という店はなかった。今実在する『とらや』は、“柴又屋”という屋号だったのだが、昭和末期の頃に、屋号を映画と同じ「とらや」に変えたのである。
そうなると、実在のこの店と屋号がかぶってしまうのと、撮影スタッフがロケのときに世話になっていたのは主に『高木屋』の方だったから、山田洋二監督が双方に配慮し、映画の店を『くるまや』に変えた・・・このあたりが真相かと思う。
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（追記）
――参道の中ほどに一軒のだんご屋がある。「とらや」を名乗っている。改築前の木造の頃、表をロケで借りたことがある。当時は「柴又屋」といった。のれん、売り台、立看板などを持ち込んで店の中から表の参道向きのカットを撮った。年に二回も撮影があるんだからと気安く、大きく重い売り台を小道具係が置いてきた。店でも便利なのでそのまま使っていた。
売り台の正面に「とらや」と出ているので、通りすがりの参詣客が「あら、ここが映画の『とらや』よ」
店では、だんごの売り台を中央に据え、屋根看板も「柴又屋」から「とらや」に変えてしまった。宣伝部が抗議を申し入れたが、店側は柳に風。とうとう我々が我慢できず、次の作品から「とらや」から「くるまや」に屋号を変えた――
※五十嵐敬司
著『寅さんの旅「男はつらいよ」ロケハン覚え書き』（日本経済新聞社）より引用
これを書いた五十嵐敬司さんは、第8作『男はつらいよ
寅次郎恋歌』から第42作『ぼくの伯父さん』まで、長きにわたり山田監督を支えたチーフ助監督。その方の言葉だけに重みがある。映画の中の「とらや」の名を奪われ、無断で営利目的に使用された制作側の憤りも察するに余りある。
ただ、制作側にも問題がなかった、とは言い切れないだろう。「年に二回も撮影があるんだからと気安く、大きく重い売り台を小道具係が置いてきた」とある通り、その売り台とは、現在も参道の「とらや」で使われているものと同一か、同程度の大きさのものだったと思われるが、かなり大きく、場所をとるものだ。
百歩譲って、店側の立場になってみれば、そういう状況が続けば制作側から公認されたと思い込んでも仕方のなかった状況といえなくもない。いずれにしろ、現在の「とらや」（旧・柴又屋）店員の中には、こうした事情を知らない方もいるであろうし、草だんごなどの商品自体に罪はないから、少々気の毒に思える。不朽の名作映画にまつわることであるだけに、後味の悪さを感じてならない。（哲舟）
※ちなみに、赤坂の老舗、羊羹で有名な虎屋（とらや）は、この件とまったく関係ないようです。ネット上には「虎屋が松竹に抗議して映画の店名が変わった」というデマが散見されるので、念のため記しておきます。
※また、ちなみに第１作の公開前に山田洋次監督が、寅さんの実家の団子屋のモデルにしたのは、参道奥のほうにある「亀家本舗」です。当時は木造の古めかしい日本家屋だったので、山田監督が惚れ込み、映画に出てくる「とらや」のモデルとしたようです。ただ、映画公開まもなくして「亀家本舗」はビルに改装されたので、その後、主に外観などの撮影現場は「高木屋」や「柴又屋（現・とらや）」となったようです。
最終更新日 2018.10.20
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