×高田延彦
(日本/高田道場)
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2回 1分
KO
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田村潔司○
(日本/U-FILE
CAMP)
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7年間の氷壁打ち砕いた田村の一発
今回私が久々に格闘技を生観戦する気になったのも、この一戦を見たいが為。桜庭の復帰も、吉田のPRIDE挑戦も、金原のシウバ挑戦も楽しみではあったけど、やはりこの一戦の前では霞む。今日を最後に引退する、高田延彦の相手をつとめるのは、かつての愛弟子・田村潔司。一時、「最強」の名を欲しいままにし「平成の格闘王」とまでいわれた高田。ヒクソン・グレイシーとの2度にわたる対決で完敗し、その後も真剣勝負の舞台では結果を残せず今ではそんな呼称も遠い過去のものとなった。そして、その高田と一時は運命をともにしながら、格闘技に対する考えの違いから袂を分かった田村。犬猿の仲とまで言われた両者が9年の時を経てリング上で対峙し、一体どういう戦いを見せるのか…。
新弟子時代のように頭を丸めてきた田村。わがままは言うけど筋は通す。田村はこういう男だ。それを見た高田の心境はどうだったろうか。ゴング前、がっちりと握手し田村は礼をするが、視線は合わせず。すでに泣き顔のようにも見える。試合は静かな立ち上がりとなり、田村が左ローキックを的確にヒットさせ、高田は受けに徹する形に。やがて、田村の右ローが高田の急所に入り試合が中断。悶絶する高田。ドクターチェックで3分間のインターバルも回復が遅い。「まさか、これで終わり? そんな…」場内騒然となる。
無事再開され、ふたたび静かなスタンドの攻防。田村は左ローを放ち続ける。高田はそれをカットできず、太股が赤く腫れ上がる。高田に、もはや蹴撃を得意とした頃の面影はない。一方、キックを封印していた9年前高田の前に5度のダウンを喫してKO負けした田村。その借りを返すかのように、執拗なほどのローキックを高田に浴びせる。だが、ダウンをとるまでには至らない。焦れた高田は前に出て田村の足を掴み、テイクダウン。グラウンドへ移行し、高田が上になるが両者組み付いたまま膠着。田村が体勢を入れ替えて上になるが、複雑な思いが去来するのか、はたまた己の哲学か、高田を殴ることができずに膠着が続く。やがて田村が立ち上がるが、ここで1R終了。観衆からはブーイングも。
2Rに入るが、田村は左ローを放ち続ける。「バチッ」。高田の足が止まり、幾度も体勢が崩れる。高田はそろそろケリをつけようとしたか、間合いをつめて殴りに行く。打ち合いの末、高田のパンチをかいくぐった田村の右フックが高田のアゴにヒット。「あっ」という場内の声。高田ファンらしき観客の悲鳴。高田が前のめりにマットに沈む。すかさず、和田良覚レフェリーが試合をストップ。会心の一発で高田に引導を渡し、終わりを悟った田村はひざまずいて泣いた。
しばらくして、立ち上がった高田は田村に歩み寄り抱き合う。数秒間の沈黙ののち、田村はマイクを手に語った。「高田さん、ありがとうございました。ずっと温かい目で見て頂きながら、色々ご迷惑をお掛けしまして、どうもすいませんでした。正直何を言っていいか分かりませんが、最後に22年間、夢と感動を与えてくれてありがとうございました。そして、お疲れさまでした」と涙声で話した。一方の高田は「一言だけ言わせてください。田村潔司! 今日お前良くここに上がってきたよ。イヤな役を引き受けてくれたよ。お前男だ。ありがとう!」と応えた。再び両者が握手。殴り合って芽生える友情もあれば、回復する信頼もある。7年間の両者の確執は、田村の渾身の一撃によって打ち砕かれたようだった。
「たかだ〜!」「たむら〜!」両者の入場時に一度ずつ名前を叫んだ。試合後にも叫ぼうと思ったが、どうしても喉の奥がキュンとなって声が出せなかった。
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