11月24日 東京ドーム
PRIDE23 高田延彦引退試合


いつもはスカパー観戦のPRIDEだが、生観戦は2年ぶり2度目のこと。
高田の引退試合に華を添えるのは、よだれが出そうなほどの豪華カード。
友人の愛帝王氏、あしたのアキラ氏とともにドーム2階席、
7000円の席にて観戦。リングからは遠かったので細部が
見えない場面も多かったが、現場で感じたままにつづる。


第1試合

○横井宏考
(日本/チーム・アライアンスGスクエア)

2回 3分29秒
腕ひしぎ逆十字固め

ジェレル・ベネチアン×
(オランダ/ボスジム)


元リングスの新鋭、PRIDE初参戦を飾る

1R開始直後、タックルを決めた横井がグラウンドで上をとって殴りつづけ、終始圧倒。すぐに極めるかと思われたが、少々手間取り1R終了。2Rも同じような展開となり、場内も中だるみしかけたが、きれいな腕ひしぎでフィニッシュ。横井、セコンドの伊藤に肩車されて雄叫び。リングス消滅後、不遇をかこっていたこの男にも、ようやくスポットがあたった。良かったなあ。


第2試合 

×山本喧一
(日本/パワー・オブ・ドリーム)

3回 1分16秒
レフェリーストップ

ケビン・ランデルマン○
(アメリカ/ハンマーハウス)


気合は充分だったヤマケン…

PRIDE22で小原道由を撃破したランデルマンが、1、2Rとも有利なポジションをキープし、アームロックを何度も極めかけるが、ヤマケン意地をみせてタップせず。遠かったのでよく分からないが、完全に極めまっていなかったのかも。3R早々、頭部へのヒザ蹴り4連発をきめたランデルマンがレフェリーストップ勝ち。ヤマケンはほとんど何もできず、実戦経験不足が露呈した格好。脳が心配…。


第3試合 

×ムリーロ・ニンジャ
(ブラジル/シュート・ボクセ・アカデミー)

判定
0−3

ヒカルド・アローナ○
(ブラジル/ブラジリアン・トップ・チーム)

アローナ、意地でスペーヒー先生のリベンジ果たす

詳しいことは知らないが仲の悪いジム同士の、因縁の対決第2弾。一進一退の攻防で、肌の色も、戦法も似通っているのでグラウンドでもつれると、どっちがどっちだか(笑)。試合よりも、セコンド陣の声と激昂する様子が面白かった。2、3Rで良いポジションをとり続けたアローナに凱歌。


第4試合

×ヒース・ヒーリング
(アメリカ/ゴールデン・グローリー)

1回終了
ドクターストップ

エメリヤーエンコ・ヒョードル○
(ロシア/ロシアン・トップチーム)

サンボマスターの末裔、暴れ馬を寄せ付けず

ノゲイラの持つ、ヘビー級王座への挑戦権を賭けての対決。ヒーリングに対する声援のほうがやや大きかったが、試合が始まると彼らも沈黙するしかなかった。開始直後にヒーリングのヒザ蹴りをキャッチしたヒョードルは、すぐさま投げ捨ててサイドを確保。上からボコボコと殴りつづけていく。
時間の経過とともにヒーリングにダメージが蓄積し、出血のために試合が一時中断したほど。再開後、スープレックスでヒーリングを叩きつけて転がしたヒョードルは、再びパンチの雨あられ。追い込まれたヒーリングは、1R終了間際になってようやく反撃を開始。ヒョードルの頭部へ膝蹴りを何発か叩き込むが、しかし遅すぎた。インターバルの際にドクターストップで試合終了。



第5試合

○アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ
(ブラジル/ブラジリアン・トップ・チーム)

1回 6分36秒
三角絞め

セーム・シュルト×
(オランダ/ゴールデン・グローリー)


長身対決もノゲイラの強さ際立ちあっさり決着

以前から、シュルトならノゲイラと戦っても面白い勝負になると思っていた。同時に、ノゲイラがどうやってこの長身のストライカーを仕留めるのかも楽しみではあった。実際に見てみると、ノゲイラにとってまさに理想の展開。序盤、組み合ったまま倒そうとするノゲイラ、倒されまいとするシュルト。この距離では、シュルトも打撃は出せない。ようやく倒したノゲイラだが、シュルトの長い手足に阻まれてなかなか優位な体制を取れない。が、時間の問題だった。やがて下からの三角絞めでノゲイラが完勝。打撃を完全に封じられたシュルトに勝ち目はなかった。



第6試合

○ヴァンダレイ・シウバ
(王者=ブラジル/シュート・ボクセ・アカデミー)

1回 3分31秒
TKO

金原ひろみつ×
(挑戦者=日本/フリー)

金原、いちかばちかの打撃戦を挑むも返り討ち

その打撃センスは格闘技界でも有名で、「シウバとも互角に打ち合える」と期待された金原だったが、序盤の攻防ですべてが決してしまった。ゴングと同時に打撃戦となるが、シウバのパンチが早くも金原の顔面をとらえる。シウバはバランスを崩した金原に追い討ちをかけ、強烈な左ハイ。すぐさま組み合って、あっさりとテイクダウンをとったシウバ。ハーフガードからパンチの連打を浴びせ、田村戦と同じような展開に。辛くも脱出した金原だが、再びスタンドに戻るとまたもやシウバの左フックを顔面に浴びる。やがて、猪木アリ状態からシウバが金原の顔面にストンピング攻撃。危険とみたセコンド(高阪か?)がタオルを投入。日本人選手の切り札的存在だった金原も、シウバの毒牙にまんまとかかってしまった。



ここで場内、20分の休憩。


第7試合

○吉田秀彦
(日本/吉田道場)

 1回 5分32秒
腕ひしぎ逆十字固め

ドン・フライ×
(米国/フリー)

吉田、見事な裏切り勝ち

発表当初、このカードに意義を見出せなかった。顔を腫らした吉田の無惨な姿がどうしても思い浮かんだものだった。しかし、今日の勝利で吉田は見事にそんな期待を裏切ってくれた。アルティメット王・フライに思うような攻撃をさせることなく、一本取ったのは見事としかいいようがない。まあ、フライも体調があまり良くなかったようにも見え、本来の地力を出せずに終わったような気もするが…。



第8試合

×高田延彦
(日本/高田道場)

2回 1分
KO

田村潔司○
(日本/U-FILE CAMP)


7年間の氷壁打ち砕いた田村の一発

今回私が久々に格闘技を生観戦する気になったのも、この一戦を見たいが為。桜庭の復帰も、吉田のPRIDE挑戦も、金原のシウバ挑戦も楽しみではあったけど、やはりこの一戦の前では霞む。今日を最後に引退する、高田延彦の相手をつとめるのは、かつての愛弟子・田村潔司。一時、「最強」の名を欲しいままにし「平成の格闘王」とまでいわれた高田。ヒクソン・グレイシーとの2度にわたる対決で完敗し、その後も真剣勝負の舞台では結果を残せず今ではそんな呼称も遠い過去のものとなった。そして、その高田と一時は運命をともにしながら、格闘技に対する考えの違いから袂を分かった田村。犬猿の仲とまで言われた両者が9年の時を経てリング上で対峙し、一体どういう戦いを見せるのか…。


新弟子時代のように頭を丸めてきた田村。わがままは言うけど筋は通す。田村はこういう男だ。それを見た高田の心境はどうだったろうか。ゴング前、がっちりと握手し田村は礼をするが、視線は合わせず。すでに泣き顔のようにも見える。試合は静かな立ち上がりとなり、田村が左ローキックを的確にヒットさせ、高田は受けに徹する形に。やがて、田村の右ローが高田の急所に入り試合が中断。悶絶する高田。ドクターチェックで3分間のインターバルも回復が遅い。「まさか、これで終わり? そんな…」場内騒然となる。
無事再開され、ふたたび静かなスタンドの攻防。田村は左ローを放ち続ける。高田はそれをカットできず、太股が赤く腫れ上がる。高田に、もはや蹴撃を得意とした頃の面影はない。一方、キックを封印していた9年前高田の前に5度のダウンを喫してKO負けした田村。その借りを返すかのように、執拗なほどのローキックを高田に浴びせる。だが、ダウンをとるまでには至らない。焦れた高田は前に出て田村の足を掴み、テイクダウン。グラウンドへ移行し、高田が上になるが両者組み付いたまま膠着。田村が体勢を入れ替えて上になるが、複雑な思いが去来するのか、はたまた己の哲学か、高田を殴ることができずに膠着が続く。やがて田村が立ち上がるが、ここで1R終了。観衆からはブーイングも。

2Rに入るが、田村は左ローを放ち続ける。「バチッ」。高田の足が止まり、幾度も体勢が崩れる。高田はそろそろケリをつけようとしたか、間合いをつめて殴りに行く。打ち合いの末、高田のパンチをかいくぐった田村の右フックが高田のアゴにヒット。「あっ」という場内の声。高田ファンらしき観客の悲鳴。高田が前のめりにマットに沈む。すかさず、和田良覚レフェリーが試合をストップ。会心の一発で高田に引導を渡し、終わりを悟った田村はひざまずいて泣いた。

しばらくして、立ち上がった高田は田村に歩み寄り抱き合う。数秒間の沈黙ののち、田村はマイクを手に語った。「高田さん、ありがとうございました。ずっと温かい目で見て頂きながら、色々ご迷惑をお掛けしまして、どうもすいませんでした。正直何を言っていいか分かりませんが、最後に22年間、夢と感動を与えてくれてありがとうございました。そして、お疲れさまでした」と涙声で話した。一方の高田は「一言だけ言わせてください。田村潔司! 今日お前良くここに上がってきたよ。イヤな役を引き受けてくれたよ。お前男だ。ありがとう!」と応えた。再び両者が握手。殴り合って芽生える友情もあれば、回復する信頼もある。7年間の両者の確執は、田村の渾身の一撃によって打ち砕かれたようだった。

「たかだ〜!」「たむら〜!」両者の入場時に一度ずつ名前を叫んだ。試合後にも叫ぼうと思ったが、どうしても喉の奥がキュンとなって声が出せなかった。


第9試合

○桜庭和志
(日本/高田道場)

3回 2分8秒
腕ひしぎ逆十字固め

ジル・アーセン×
(フランス/チーム・レ・バンナ)


足を痛めた桜庭、それでも不甲斐なき対戦相手

引退の花道を行く高田、その先にはメインを控えた桜庭が待ちかまえる。桜庭は抱擁で高田を迎えた。「あとは頼んだ」と高田のメッセージ。このプレッシャーの中、桜庭は常に優位な状態をキープしパンチを中心に攻め続けた。相手のアーセンは、ジェロム・レ・バンナの柔術の師匠らしいが、どうもその肩書きは怪しい。スタンドでもグラウンドでも防戦一方の状態で、桜庭もなかなか攻めきれない。盛り上がりのないまま試合は3Rを迎え、インターバルの間に席を立つ観客も出始める。確かに、ここまで第1試合開始から5時間以上が経過している。アーセンの戦意の無さに、客は苛立っていた。桜庭本人も言うに及ばずだろう。桜庭は勝負に出て、一気に腕ひしぎ逆十字固めをしかけに行き、見事に極めた。

試合後、桜庭の呼びかけに応じてマイクを握った高田は、「サク、お前やっぱり男の中の男だ」と後継者の勝利を祝った。そして、高田が続ける。「Uインター出身の奴ら、ちょっと上がってこいや!」場内には、UWFのテーマが流れ、高山、安生、宮戸、金原、ヤマケン、田村らが続々とリングへ集結。あれだけいがみ合っていたはずの田村とヤマケンも握手。PRIDEの会場が、U一色に染まった。

それにしても、PRIDEという場の柔軟さ、演出は素晴らしい。これまでのような「団体」という枠にとらわれていては、絶対に実現できなかった展開だろう。おかげで、実に「いいものを見せてもらった」気分になれた。
最後の猪木の「1、2、3、ダ〜」は余計だったように思うが(笑)。猪木なんか出てこなくてもいいのに…。でも、その場の雰囲気に誘われて「ダ〜」をやってしまった自分が、ちょっと嫌になった。

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