蒼天航路

著者

王 欣太  (原案)イ・ハギン

執筆年・形態

1994年(平成6年)〜2005年(平成17年11月)
「週刊モーニング」にて連載

出版

講談社モーニングKC、講談社漫画文庫

哲坊の
おすすめ度

★★★★★★★★8

曹操を主人公に据え、基本的に正史をベースとして描かれた三国志漫画。連載当初は原作者と漫画家(王欣太)との二人三脚で制作されていたが、途中で原作者が亡くなり、王欣太がそのまま続きを描いた。それゆえか、官渡の戦いあたりから作風がやや変わったようにも感じられる。ただ、登場人物が年をとっていく様が全編を通じて意図的に反映されているのが良い。その絵にしても、最近ありがちな「萌え」系ではなく骨太で好感がもてる。

序盤は創作もかなり多かったが、若き日の曹操像に深く掘り込まれていて興味深い。とくに主役の曹操はとくに序盤、万能的な人物に描かれる。1人で何十人もの敵兵を斬り殺すなど武勇もかなりの冴えを見せるが、その場面への注釈として、正史の記述を引用するなど、フォローも入っていて親切。

夏侯惇や曹仁ら腹心も早くから登場する。これまでは、魏の武将は誰が誰だかわからない作品が多かった中で、本作はどれもキャラが立っている。とくに楽進、張遼あたりはファンも多く付いたようだ。ただ、シ水関で華雄を斬るのが夏侯惇だったりなど、とくに序盤は曹操陣営の贔屓ぶりも目立った。

曹操と妻ベン氏との出会い、息子の曹植、曹彰とのふれあいなど、これまであまりイメージ化されなかった曹操の身内にもスポットが当てられた。曹操が雛氏にうつつを抜かしている間に典韋、曹昂、曹安民を戦死させ、一時期妻や妾に愛想をつかされたりする点も人間味があっていい。

人間味といえば、前半はかなり性描写も頻繁に登場するが、その存在意義は子供の読者には理解しがたい部分かもしれない。とくに曹操が、その雛氏とのセックスに溺れるシーンなどに理解を及ぼすためには、ある程度の人生経験を要することだろう。また、曹操が詩歌や音楽の普及に貢献したり、酒造や料理に取り組むなど業績に関連した描写もあって芸が細かい。業績だけでなく、赤壁での惨敗や徐州での大虐殺といったマイナス面もちゃんと描かれていた点も良かった。人間の内面や哲学にまで切り込んでいるあたり、「大人向け」の三国志といえるかもしれない。

曹操陣営だけでなく、劉備や孫権陣営の人物も非常に個性が強く魅力的だ。とくに劉備は、演義などの聖人像を打ち破り、ヤクザの親分として登場、そのまま一国の主に成りあがっていく様子が描かれた。荊州時代にはイヤというほど挫折感を味わい、関羽や張飛と大喧嘩して仲違いしたり、長坂では妻子を自ら置き捨てて逃げたりという既存の人物像とは違った描写に衝撃を受けたものだ。

また、本作でとくに人気が高いのが呂布や董卓で、彼らは恐ろしいまでに強くてキャラも強烈。虎牢関での呂布対関羽は迫力満点だったが、できれば1対1ではなく張飛にも加勢して欲しかった。袁紹や袁術も、「もしかしたらこういう奴だったのかも」と思わされてしまうほどに個性豊かである。

ただ、諸葛亮の描かれ方には少々不満も感じた。初登場は強烈なインパクトがあったし、偽の書状で呉の連中を出し抜き、赤壁の戦いを引き起こしたあたりは凄かったが、終盤はあまり目立っていなかったのが残念。また、作品終盤に登場した呉将の陸遜や丁奉などのキャラはいかにもファンサービスのために唐突に出てきたような感じで、あまり感情移入できないうちに終わってしまった。

2005年11月、週刊モーニングで連載が終了。実に足掛け11年の超大作となった。タイプこそ違えど、三国志漫画の中では「横山光輝三国志」に比肩し得る内容かと思う。最後の2年ぐらいはややトーンダウンして、ラストも結構唐突に終わったような印象を受けた。もう少し過去を振り返る描写があったり余韻が欲しかった気もするし、曹操や関羽死後の呉や蜀の様子も見たかった。

大体、赤壁直後の「すっとばし」以降だろうか、徐々に作者のモチベーションが低下しているのが読み取れたし、やや尻すぼみで終わったように思えたが、全編通じて楽しめた。「横山三国志」では既に物足りなさを感じる人も多いだろうし、新解釈の三国志のひとつとして高く完成された一作ではなかろうか。何年後かに、「曹丕編」などと題した続きが見たいものである。(2005.12.16 哲坊)


皆さんのレビュー

空 殿

三国志の小説、漫画のほとんどは劉備を主にして物語が進んでいくけど、この蒼天航路は曹操が主という設定でとても面白い。曹操側からの視点での展開は自分にとって新しい三国志という感じがした。演義ではあまり目立っていない武将などがいっぱい出てくるところもとても良かった。(04.8.18)
評価…★★★★★★★★★★10

よっちゃん

読んでて、とても迫力がある感じがします。曹操だけでなく、劉備、関羽、諸葛亮、孫権、呂布、袁紹といった三国志を彩るキャラクター達全員が、斬新で、それでいて魅力的に書かれていると思います。特に劉備を侠の人として生き生きと描かれているのがとても良いです。良くも悪くも三国志は劉備なしには語れないと思いました。演義の影響で、蜀=正義、曹操=悪党というイメージが強かったのですが。一巻の冒頭にあるように、歴史は善と悪で割り切れるものではない、ということを改めて認識させられました。(05.1.12)
評価…★★★★★★★★★★10

梢統 殿

素晴らしい!!善悪を超えた三国志といえばよいのか、うまく表せないが、善でも悪でもない人の本性といった所が非常に好感を感じさせた。(05.4.24)
評価…★★★★★★★★★★10

デンホー大臣

よく言えば斬新で格好良い、悪く言えばビジュアル過ぎる三国志ですね。怪物のような許楮や興奮する諸葛亮にキャラとしての新しい魅力を感じました。小さい頃から曹操は優秀すぎて嫌だなぁと思っていましたがこの曹操は素直に英雄だと思えます。ただ、少年には読ませる事ができないのが残念です。中学生の頃初めて知った自分にとってはアダルトなシーンはかなりきつかったです。やっぱり横山派なんですね(笑)。(05.11.12)
評価…★★★★★★★7

七龍 殿

私はこの作品に出会うまで(漫画では)横山版三国志しか見てませんでした。(正史は未だに読んでいませんが、ゲーム・攻略本などにより多少は知ってました)。昨今、三国志を題材とした漫画が幾つか見受けられますが、この蒼天航路が起点となったといっても過言ではないと思います。それほどの影響を与えた作品と思います。

この作品が他の三国志作品と明らかに一線を画すのは、何と言っても『人物描写』に尽きると思います。私が注目したのは、董卓!!圧倒たる存在感、愚直なまでの信念…この作品で董卓に対する認識が180度変わりました。他にもゲームや演義で雑魚武将扱いされていた漢たちにもスポットライトを当てて魅力的な人物像を作り上げていたと思います。(徐栄や成公英などなど)残念ながら連載は終了してしまいましたが、次なる作品に期待したいと思います。…あぁ、もっと書きたい事があるのに文才が無いので書き足りません。もどかしい。長文駄文失礼しました。 (05.12.16)
評価…★★★★★★★★★★10

カンヌ 殿

三国志を題材にしたものは過去にもいくつか触れましたがこれほどの作品はなかったと思われます。三国志だからといって戦ばかりでなく後漢末期三国鼎立の時代に生きた人々のそれぞれの思想、乱世を生き抜く様々な才、曹操と儒との戦いなどいままでの作品で欠けていた「三国志の人々」をうまく表現できていた作品だと思います。(人物が年をとっていき見た目も変わったり曹仁の後半の成長なども良し)

さらに今までの三国志では「董卓=悪」や「袁紹=優柔不断」「劉備=聖人君主」というほぼ当たり前になりかけていたものを覆しさらに「歴史とは善悪で割り切れるものではない」ということを読者に訴えかける良作。この作品で好きになれた武将も多く(董卓・程イク・陳宮等等多)また今まであまり詳しく知らなかった武将(郭ワイ等)も知れよかったです。最期の荊州攻防では作品の勢いもすこし落ちた気もしましたが作品の終わり(=曹操の死)に近づいていたのでそれもありかなと。その曹操の死のときの画がまた感動的でした。この作品を語るにはまだまだ書き足りないものの足りないお頭でこれ以上駄文を書くわけにも行かないので最期に「一度読んで損はない」これだけは言えます。 (06.4.8)
評価…★★★★★★★★★★10


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